翻訳神ことosaru1597さんにインタビュー(Football Manager)

2023年11月24日金曜日

Football Manager インタビュー

t f B! P L

今回は長年にわたりサッカー監督ゲームのFootball Managerにおいて日本語化Modを作成してきたosaru1597さんにインタビューをしました。

今までの翻訳活動の裏側などについて聞くことが出来ました。個人的には日本語化Modの導入方法の変遷が懐かしかったです。

まずは長い間にわたる日本語化Modの作成活動おつかれさまです。日本の全Football Managerプレイヤーに代わって感謝を申し上げます。今までの日本のFMプレイヤーのほぼ全員がosaru1597さんにお世話になっていると思うので、感謝をしてもしつくせないと思います

ありがとうございます。

実のところFMの日本語訳を始めたきっかけは、日本語対応していなかったからではなく、日本語対応していたからです。

何度も言及している通り、FMは2008まで日本語対応していました。私が翻訳に正式に関わったのは前身のChampionshp Manager 01/02で、その後の日本語版にはタッチしていないのですが、翻訳がかなり拙くて雰囲気が台無しになっていると思ったので、自分で翻訳し直して個人利用の範囲で楽しんでいました。FM2009から日本語が非対応になったこともあり、2011年から日本語化ファイルの公開を始めました。

話せる範囲で良いので、普段はどのようなお仕事をされているかお話しいただけますか?

メーカーで製品開発に関わっています。ハードもソフトも作る会社ですが、私は一貫してソフトウェア開発です。

現在はプログラムを書く仕事から離れ、ソフト製品のUIやハード製品の操作パネルの操作フローや表示する文言を決定し管理する部門にいます。私自身は、日本語と英語で作られた文言を30以上の言語に翻訳する業務を仕切っています。翻訳自体は海外の拠点に依頼します。翻訳を回収し、チェックをして製品用にデータ化するまでが役割です。他に、製品に載せる文言を一括管理するデータベースの保守もしています。

現実の仕事が日本語化Modに活きていたなどはありますか?

うちの部門では、作成する文言の言葉遣いに厳密なガイドラインがあるので、FMが表示するシステムメッセージの表記にそれを借用したことはありますね。

日本語化Modを作っているからこそ知っている面白いテキストデータなどはありますか?有名なところだと「車のアクセルに足を伸ばそうとして負傷」などの不思議系の怪我などがあると思います。

おっしゃる通り、負傷の理由はなかなか面白いですね。393913~393936に集中していますので、興味がある方はご覧になってください。シャンペンのコルクが当たったとか、ゴルフカートで事故ったとか…。Football Managerのやり過ぎで負傷することもあるようです。

試合のコメンタリーは表示時間が短いので気付きにくいですが、ときどき面白いのがあります。

(選手名) wouldn't look out of place on a rugby pitch right now

シュートを上にふかした時に表示されることがあります。「ラグビーのピッチにいてもおかしくない」という意味ですが、私は「ラグビーと勘違いしているのか」と訳しています。FM24では「まるでラグビーをしているかのようなプレイ」と翻訳されています。

※インタビュアー注: FM23などの日本語化に利用をしていたjapanese.ltfファイルはテキストエディタで直接開くことが出来ます。文章ごとにIDが振られており、前述の通りKEY-393913あたりには面白い負傷の理由が記載されています。面白いので見る価値があるかと思います。また、それぞれの面白い負傷には元ネタがあるのでそれも調べると面白いです。

活動をされてきた中で一番翻訳が大変だったシリーズはいつのものですか?そしてそのどこが大変でしたか?

強いてあげれば、初版のデータを作った2007、選手との会話が追加された2011(ごろ)、ゲーム内SNSが追加された2017ですね。

2007は全体の方向性を決める上で一番試行錯誤しました。ニュース記事の公式翻訳が「です・ます」調ですごく違和感があったので、どうしても「だ・である」調にしたかったです。自分で翻訳し直したかった直接のきっかけです。

選手との会話が新たに追加されたのがいつだったかはっきり覚えていないのですが、言葉遣いですごく悩みました。敬語という英語にない要素を取り入れて違和感がないかかなり確認しました。一人称も悩みに悩んで、選手の一人称は「自分」というちょっと体育会系っぽい言葉遣いに落ち着きました。というのも「俺」「僕」「私」は性格が反映されてしまうと思ったからです。誰の発言になるかわからないので、性格が現れない言葉遣いを考えていたら結局「自分」になってしまいました。

2017ではソーシャルフィードというゲーム内SNSが実装されました。これも苦しみましたね。"I like it."とか"What a joke."とか言われてもまず文脈がわからない。さらに、翻訳していくうちに、クラブやリーグの公式アカウント、サッカー記者、ファンの3つの立場があることがわかって言葉遣いを変えなければならなくなり、どの立場で発信しているのかも読み取る必要がありました。

日本語化全般で大変だったところは何ですか?

翻訳とは直接関係ありませんがFMの仕様変更には何度か苦しめられています。

初期はLTC Editorというロシア製のツールを使って、LTCファイルを編集していました。製品にはLTCファイルしかなく、LTC Editorが翻訳に使用する唯一のツールでした。LTCファイルとは、言語データのテキストファイルであるLTFを一定のルールで変換したバイナリファイルです。

LTCの仕様が2011でマイナーチェンジされたため、旧フォーマットに変換するツールを作りました。

さらに、2014でLTCのフォーマットが大幅に変更され、ついにLTC Editorがまったく使えない状況になりました。そこでLTCをテキストに変換するツールを自作して何とか翻訳を続けました。

2017以降は言語modが公認されると同時にltfファイルが提供されるようになったので、かなり楽になりました。

文言にはどういう意味でどこで表示されるのか注釈が付けられます。LTFファイルではそれが見られるのですが、LTCファイルではほぼ欠落しています。なので、LTCファイルが唯一の情報源だった時代は本当に苦労しました。

そうそう、2012ではjapanese.ltcが読み込まれなくなるという致命的な仕様変更がありました。仕方なく既存のEnglish(US)を日本語データで置き換えるという苦肉の策をとりました。これは2016まで続いています。さらに、特定の文言を翻訳するとLTCが読み込まれなくなるという有志翻訳潰しとも思える仕様が実装されていました。これも翻訳してはいけない文言を特定し回避しました。

このように、言語mod公認前は壮絶な戦いがありました。非公認なので文句は言えませんが、こちらも意地になっていました。

これは上手く翻訳できたと思う箇所はありますか?

いろいろありますが、記者会見全般は毎作力を入れていましたね。

すでにあげた

en: (選手名) wouldn't look out of place on a rugby pitch right now
ja: (選手名), ラグビーと勘違いしているのか

も気に入っています。

"Be More Disciplined/Be More Expressive"の訳「もっと自分を抑えろ/もっと自分を出せ」も割と好きです。

逆に翻訳が難しかったところはありますか?

英文和訳であるあるなのが、二つほどあります。

一つ目は、同じ英単語を異なる文脈で使い回していることです。例えば、"macth"は試合を意味すると同時に、検索条件に適合するという意味でも使われている時期がありました。日本語ではまったく違う単語になるので頭を抱えましたね。開発元もそこは理解したようで、同じIDを使い回すことは最近は少なくなっています。

二つ目は日本語に置き換えるのが難しい英語固有の表現があることです。例えば「退場」を意味する英語は直接的には"sent off"ですが、他にも"earn an early bath"とか"marching order"など婉曲的な表現がいくつもあります。"earn an early bath"は(退場した選手が)早めの風呂に入ることを意味し、"marching order"は歩け(歩いて出て行け)という命令を意味します。「早めの風呂」などといちいち表示されたら日本語ではくどいだけなので、すべて「退場」と訳しています。これはFM24でも引き継がれているようです。

他にも、弱小チームが強豪チームに挑むことを例えて「ダビデとゴリアテ」と表現されたり、日本人にはわかりにくい例えが結構あります。悩んだ結果そのまま翻訳しているものもありますが、ユーザーさんに理解されているのか自信がありません。

英文和訳あるある以外では、どこで表示されるのかさっぱりわからないものがたまにあって苦労しましたね。ご存知のようにFMは画面数がとても多く、たまにしか表示されないものもあるので探すのが大変でした。FMの言語ファイルは文言が順不同に並んでいて、画面や機能ごとにまとまっているわけではないので、どこで使われるのかをひとつひとつ確認する必要がありました。どうしてもわからないものは適当に翻訳して後で修正することもありました。ユーザーさんに指摘されることもあったので、すごく感謝しています。

日本語化Modは句読点に.や,を使っていたり、文章中にスペースを入れる分かち書きとなっておりますが、何かこだわりがあってのことでしたか?

FMのユーザーインターフェースはヨーロッパ言語の表示を前提としています。ヨーロッパ言語は単語間にスペースがあり、スペースの位置に適宜改行を挿入することで長文を画面内に収まるように表示しています。日本語にはスペースがなく、スペースを入れずに文を作るとそれが一つの単語とみなされて改行が行われず、結果として長文が見切れてしまう現象が起こります。

そのため、私は日本語の文に適宜スペースを入れる「分かち書き」をすることでヨーロッパ言語と同様に文中に改行が入るようにしました。FM24ではスペースではなくゼロ幅スペースを挿入しています。これにより、見た目は分かち書きではありませんが表示上は適切に改行されるようになっています。

なお、LTC Editorではゼロ幅スペースが視認できず編集上の不便の方が大きかったので、通常のスペースを入れることにしていました。

※インタビュアー注: FM24開発途中のものと思われるスクリーンショットではこの対応が間に合っていなくて、複数行になる長い文章の場合は1行目の終わりで「...」で省略して尻切れになっているものがあったりした

FMの開発にアルファテスターとして参画をしたとのことですが、実際に具体的にはどのようなことをされていますか?また、どんなことをしていきたいですか?

アルファテスターに招待されたのはFM24のベータリリースの少し前でした。次回作であるFM25から本格的な活動になると思います。

さまざまな制約で翻訳作業そのものには直接関与できないのですが、「お前の知識を活かす方法を考える」と言ってくれているので、与えられた役割ができるよう努力したいです。

余談ですが、アルファテスターになると自分自身(あるいは任意のプロフィールの選手)をNewGenプールに登録することができます。そのうちゲーム内にOsaruという選手が登場するかもしれません。

※インタビュアー注: 検索欄に"faceinthegame"と打ち込んで検索をすると、ゲーム開発に貢献をした人物の名前にちなんで命名された生成選手を表示することが出来たりします

FM以外にも様々なゲームをされているようですが、おすすめのゲームとその魅力を教えてください

ブロック崩しやインベーダーの時代から生粋のゲーム好きです。

いろいろ手を出してきましたが、プレイする時間も限られますしある程度絞って長く遊ぶのが最近は好みです。

中でもEuro Truck Simulator2とKerbal Space Programは結構やり込んでいます。どちらもmodが充実しておりゲームの世界をどんどん広げてくれるので終わりがありません。

いわゆるジョブシミュレーターも割と好みで、Car Mechanic Simulator、Farming Simulator、Construction Simulatorなどをよくやっています。

ドライバーとしてラリーに出場していることもあり、レースゲームやラリーゲームも好きですね。コンシューマでは、GT7、EDF6、Horizonなどが最近のお気に入りです。

このブログを検索

プロフィール

サッカー監督シミュレーションゲームのFootballer Managerに関する動画やサイトを作っている人です。 かれこれFM2013からやっているけど、永遠の初心者。 好きなサッカークラブはイングランドのニューカッスル・ユナイテッド。 当ブログではプレイしているゲームについての...

ラベル

QooQ